日本人が好きなクラシックの作曲家は、断トツ1位でベートーベンだそうですが、そのベートーベンが今年生誕250年になります。
先日、小学3年生の男子生徒にその話をしました。
「生誕ってわかる? もしベートーベンが生きていたら250歳ってことだよ。」と言うと、
「えーっ250歳? キモっ」
「・・・。」
いや、そういうことじゃなくて・・・
そんな生徒でもレッスン室にたくさんある作曲家の写真の中の、どれがベートーベンか分かります。
タイトルを知らなくても、弾いてあげると「聞いたことある!」というのが「エリーゼのために」です。
発表会でも人気のある初級の生徒さんの憧れの曲、「エリーゼのために」についてこれから解説したいと思います。
「エリーゼのために」 解説
ここでは「エリーゼのために」の背景と、誰もが思う「エリーゼ」って誰?の疑問におこたえします。
また、難易度と演奏のポイントも解説します。
「エリーゼのために」の背景
「エリーゼのために」は1810年(40歳)に作曲されたと言われています。
もともとは曲にタイトルはなく、ベートーベン研究家のルードヴィッヒ・ノールによって発見された未出版の小品でした。
自筆譜に「エリーゼのために、4月27日」という献辞があったため、それがタイトルとして定着したのです。
ベートーベンが耳の病気になり、自身の音楽家としての人生に苦悩し、遺書(『ハイリゲンシュタットの遺書』)を書いたことはご存じの方も多いでしょう。
ベートーベンは、はじめ自身の耳の様子がおかしいことを隠していたため、病気がいつごろから起こったのかはっきりしていません。ただ、友人に送った手紙から、1796年(26歳)から1798年(28歳)にかけて発症したと考えられています。
そして1802年(32歳)の時、耳の治療のため静養にきたハイリゲンシュタットで遺書を書きます。そこには、音楽家の自分が難聴であることの深い苦悩、そして芸術家としての誇りと覚悟が記されています。
この『ハイリゲンシュタットの遺書』をきっかけに、ベートーベンの創作は滋味と勢いを増しました。
ピアノソナタでは第26番『告別』、ピアノ協奏曲では第5番『皇帝』、交響曲では第5番『運命』、第6番『田園』など、大作を多く書きました。
1803年からおよそ10年のこの時期を『傑作の森』とよんでいます。
「エリーゼのために」はこの『傑作の森』の中で生まれたのです。
エリーゼって誰?
ところで誰もが持つ疑問、「エリーゼのために」の「エリーゼ」とは一体誰なのでしょうか?
これまでの最有力候補は「テレーゼ・マルファッティ」でした。大富豪マルファッティ家の娘です。
ベートーベン以前の作曲家は宮廷につかえて注文された曲を書くことが仕事でしたが、ベートーベンはこのスタイルをとらず、独立した音楽家になりました。
パトロンに曲を買ってもらったり、貴族の娘たちにピアノのレッスンをしたりして収入を得るのです。
そうした中で知り合った「テレーゼ」にベートーベンは恋をし、彼には珍しく、お金をもらわずに曲をプレゼントしたとされています。
熱男のベートーベンは、勝手に彼女との結婚の準備までしていましたが・・・。
当然それは身分違いなベートーベンの一人相撲。テレーゼの両親にも反対されて、あえなくその恋には終止符を打つことになります。
実らぬ恋の相手であった彼女の遺品の中にこの譜面があったため、この楽譜に記されていた「therese」が、ベートーベンの悪筆により後に「elise」と読み違えられた、というのがこれまでの有力な説でした。
因みにピアノソナタ第24番の『テレーゼ』は別人で、テレーゼ・ブルンスビック伯爵令嬢のことです。
しかし、2010年にエリーゼ別人説が浮上します。
その人物がエリーザベト・レッケルというソプラノ歌手です。
ベートーベンの知人の妹である彼女は「Elise」という愛称で呼ばれていました。
彼女はベートーベンとかなり親しい間柄であったようで、晩餐会で愛情たっぷりに腕をつねられたりした、ということが伝えられています。
おそらくベートーベンは、彼女に好意を持っていたでしょう。
しかし彼女は、作曲家のフンメルと結婚します。
失意の中で、彼女を想う気持ちで作曲したかも知れません。
1810年頃、他にエリーゼと呼ばれる女性はベートーベンの周囲にいませんでした。
それもあって、このエリーザベト・レッケルが「エリーゼ」なのではないか、と考えられるようになったわけです。
彼女は、ベートーベンの死の数日前、夫とその弟子のヒラーと共に見舞っています。
そして、ベートーベンが死んだ時、彼の髪を少しと、作曲に使った愛用のペンを譲り受けたいと申し出ています。
エリザベートが、かつてベートーベンと心をかよわせ、死の床にいる彼を作曲家としてなお、尊敬の念を抱いている様子が分かります。
彼女が本当の「エリーゼ」なのかも知れませんね。
「エリーゼのために」難易度
一般的に初心者向の小曲とされています。
教材で言えば、バイエルを終えてブルグミュラーを何曲か終えた頃に「弾けるかな?」というレベルです。
確かに前半は右手と左手のフレーズを交互に弾くので、譜読みもやさしく、弾きやすいです。
しかし、右手の32分音符が連なるところ、右手の和音が連続しているところなどは、生徒さんが苦労することが多いです。
この曲に至るまでどれだけの曲を弾いてきたかによって違いはありますし、年令によっても差がありますが、私の感覚で言うとこの曲のレベルは、中級に近い初級、です。
「エリーゼのために」演奏の5つのポイント
ポイントその1
このような弾き方が時々生徒さんにみられます。
冒頭部分が ミ♯レミ♯レミシレドラ~ と、ミの音が強すぎる弾き方です。
そして、このような弾き方になってしまう場合、拍子を意識していません。
この曲は8分の3拍子で、最初の ミ♯レ は、アウフタクトです。
つまり、1,2,ミ♯レ と始まります。
休符の部分も音楽です。大切に感じましょう。
ポイントその2
転調して右手に32分音符が出てくる部分、速くて「難しい!」と焦るあまりにガツガツとした弾き方になってしまわないよう、落ち着いて弾きましょう。
1の指で弾く、 ド、ソ、ラ、シ、ド、レ、のラインを意識すると良いと思います。
ポイントその3
テーマが戻ってきたところは、それまでの3拍子から2拍子のように感じられるところがあるので、 ミ♯レ を多く弾いてしまったり少なく弾いてしまったりする生徒さんがいます。
そんなときは、シミ ♯レミ と、♯レミ ♯レミ をセットにして覚えてもらいます。
そうすると「あれ?今何回目だっけ?」(笑)みたいなことが防げます。
ポイントその4
左手の連打音を頑張りすぎないようにしましょう。右手の和音、上の音を聴きましょう。
ポイントその5
イメージを持ちましょう。
ここまでベートーベンと「エリーゼのために」について少しの知識を得ました。
それを元に想像の翼を広げましょう。
右手と左手を交互に弾くところなどは、まるで恋人同士が語り合っているようではありませんか?
今弾いているところがどんな場面なのか、考えてイメージして弾きましょう。
まとめ
なにしろ250年前の話です。
残された手紙やメモや資料から、事柄をつなげているのです。はっきりしたことはなかなか分かりません。
しかし科学の進歩によって研究が進み、今まで分からなかったことが日々明らかになっているのも事実です。。
近い将来「エリーゼ」が誰なのかはっきりする日が来るかも知れませんね。
さて、「エリーゼ」の正体はまだ明らかではありませんが、私達にはベートーベンが残してくれた楽譜があります。
私達は、ベートーベンが伝えたかった思いを楽譜から丁寧に読み解いて、表現していこうではありませんか。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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